オナ禁は一日にしてならず

オナニーで人生を破滅させた男が失われた全てを取り戻す為、起死回生を図った魂の記録

性欲と悶絶のあいだ(後編ー1)

これまでの「性欲と悶絶のあいだ」

 

オナ禁だって?馬鹿馬鹿しい。」

 

ふとした偶然から「オナ禁」の存在を知った俺は、

嘘みたいなオナ禁効果の数々を見て辟易し、サイトを閉じた。

 

そんな時、大学の同級生だった遠藤達也から

飲みに行こうと誘われ、俺たちは同窓会以来の再会を果たした。

 

「久しぶりだな、一樹。最近どうよ?

あれから彼女とかできたのか?」

 

「いいや、全然だよ。

どうも俺にはその手の縁はないらしい。」

 

そして俺は達也に全てを話した。

 

大学で初めて出会った時とは全くの別人になっていた

達也が、どういう経緯でそこまで人生を変える事ができたのかを

俺は知りたかった。

 

「達也、頼む!一生のお願いだ!!

お前がどうやってそこまで変わる事ができたのか、

俺に教えてくれ!!」

 

達也は黙って俺の話を聞いた後、俺の目をジッと見てこういった。

 

「お前、オナ禁って知っているか?」

 

6.そして再び動き出す

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「何だって!?」

 

店の後片付けをしていた店員達が何事かと一斉にこっちを見た。

 

「おいおい声がでけーよ。そんな驚く事じゃねえだろ。」

 

とっさに達也に諭されたが、俺が驚いたのはそこではなかった。

 

まさか達也がオナ禁をしていたとは露程も思わなかったので

達也の人生の変わりようを間近で見てきた俺にとって、

その事にオナ禁が関係していた事実に驚きを隠せなかったのだ。

 

「あ、ああ・・今朝ネットで偶然見つけたよ。

オナニーを禁止する事で人生が変わったって人が沢山いた。

あれってマジなのか・・・?」

 

達也は運ばれて来たウーロン茶を一気に飲み干し、話を続けた。

 

「大体知ってるみたいだな。じゃあ話は早い。

一樹、結論から言うとネットに書かれているオナ禁効果は

一部誇張されて書かれている物もあるが、あれは概ね全て本当だ。」

 

いつの間にか俺はテーブルから身を乗り出して

達也の話を一言一句聞き漏らすまいといわんばかりに聞いていた。

 

こんな身近にオナ禁効果を自ら体現している

人物がいるとは思いもしなかった。

 

正直、最初にネットで体験談を見た時は胡散臭くて、

とてもオナ禁なんて信じられなかった。どうせデマに決まっていると。

 

だが、もし

オナ禁効果が本当にあるとすれば、

それまで俺と同じ様にほとんど女性と縁がなかった達也が

急にあそこまでモテるようになった理由も全て説明がつく。

 

そして達也はこう続けた。

 

「いいか?ネットでオナ禁なんて意味はないと言っている連中は

実際にオナ禁をせずにただ、そう言っているタイプと

正しいやり方でオナ禁をせずに途中で投げ出したタイプがほとんどなんだ。

俺は成功者の情報商材を参考にして、

自分のライフスタイルにあったオナ禁のやり方を確立したから

400日のオナ禁に成功したんだ。

効果の程はお前も知っての通りさ。」

 

「400日!?達也、お前、一年以上もオナニーせずに過ごしてたのか!?」

 

「まあな。でも彼女や女友達とたまにセックスはしていたけどな。」

 

思春期に精通を迎えて毎日のように

オナニーをしていた通称”オナ猿”の俺にとって、

400日という数字は途轍もない数字だった。

 

「一樹、俺が使ってた情報商材をお前にやるから、

まずはそこから実践できそうな物だけでも実際にやってみたらどうだ?

俺はそれで人生が変わったぜ?」

 

雲をつかむような話だったが、今の俺にはこれ以上失う物など何もない。

 

どうせなら騙されたと思ってやってみるのも悪くなかった。

 

達也は「ただし、」と前置きしてこう付け加えた。

 

オナ禁は人生を変える為の手段であって、目的じゃないんだ。

手段が目的に変わっちゃダメだ。

よく人生変える為に始めたはずのオナ禁が、

いつの間にか〇〇日続ける事が

目的になっちまう奴らがそうだ。

それから自分の人生を全てオナ禁中心に考えるようになってもダメだぞ。

最終的にオナ禁を使って人生を変えるのはお前だという事を忘れるなよ。」

 

その後、会計を済ませて俺たちは店を出た。

 

時刻は23時。

4月の東京の夜風はまだ肌寒かったが、

酔って少し火照り気味だった俺の身体には心地よかった。

 

スプリングコートに身を包んだ新社会人達がそれぞれ

家路につく中に混じって

俺と達也は駅までの道を一緒に歩いていた。

 

 

「達也、会えて良かったよ。今日は本当にありがとう。

こんな俺でも変われるかな・・・?」

 

「ああ、お前なら大丈夫だよ。」

 

7.性欲と悶絶のあいだで

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やってしまった。

 

オナ禁を開始して3日目。

 

オナ禁者の間で通説になっている最初の関門、

3~7日目の壁が俺はなかなか超えられずにいた。

 

PCのエロ動画の音声が響き渡る部屋で、

俺は達也がいかに偉大な事を成し遂げたのかを思い知らされた。

 

達也から情報商材を渡された日から

もうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。

 

 一ヶ月くらいなら何とか我慢できるだろうと

息巻いていた俺の自尊心はあっけなく打ち砕かれた。

 

ムラムラが半端ない。

 

そりゃそうだ。

 

今の今までムラムラすると秒で抜いていたんだから。

 

だがこんなところで落ち込んでいる訳にはいかない、

俺は人生を変える為にオナ禁をしているんだ。

 

自分にそう言い聞かせて明日からこそ

本気でオナ禁を頑張ろうと決意する。

 

その2日後には再びエロサイトのバナーをクリックして

悶絶した後、見事に昇天。

 

「くそっ!!くそおっ!!!

一体俺は何をやっているんだ!!!」

 

自分の意思の弱さに嫌気がさしてくる。

肝心のオナ禁日数は全然増えず、ティッシュの消費量だけが増えていった。

 

こんな事いつまでも繰り返してちゃダメだ。

何とかしないと。

 

食事を変え、筋トレをし、睡眠を充分取ってエロ禁もし、

サプリメントも複数摂取した。

 

達也からもらった情報商材に書かれていた事はほとんど実践した。

 

それでも日数が伸びない。

何日か経つと過去に見たエロ動画の内容が脳内に

フラッシュバックし、

我慢出来なくなってどうしても最後には抜いてしまう・・・

 

このままではオナ禁で人生を変えるなんてとてもできない。

 

そして更に一ヶ月が経ったある日、

気分を変える為に俺は街へでかける事にした。

 

 よくよく考えてみると、オナ禁を開始してからは

オナ禁の事で頭がいっぱいになっていたので、

外出はほとんど近所のコンビニだけしかしていなかった。

 

外へ出る時間が増えれば、

気持ちを少しでも持ち直す事ができるかもしれない。

 

初夏の日差しがまぶしい土曜日の皇居周辺はランニングに汗を流す

ビジネスマンやOLでにぎわっていた。

 

健康で建設的な生活をしている彼等をうらやましいと思いつつ、

公園を一周して学生時代以来行っていなかった国立近代美術館を

見て回った。

 

その後、遅めのランチを取って

駅周辺のカフェで一息つくころには、

入道雲とビル群が紅く染まって帰宅ラッシュが始まろうとしていた。

 

思えば会社を退職して

この数ヶ月はまともに外出していなかった。

 

仕事を失ったショックで外出できなかったのも勿論あるが、

それ以上に自分と同年代の人達が仕事をし、

家庭や自分の生活を守りながら懸命に生きている姿を

見るのが辛かったからかもしれない。

 

だが今日は久しぶりにいい一日を過ごせた。

 

やはり人は他者や社会と関わる事で初めて生きていると言えるんだと

改めて認識し、気持ち新たに帰宅しようと駅前のホテル街を

通りかかったその時、

俺は思いがけない人物を目にした。

 

それは男性と2人でホテルの入り口から出て来た山中千春だった。

 

しかし、まだそれだけなら俺はそこまで驚かなかったかもしれない。

 

何と山中と一緒に出て来たのは彼女の上司の三上だった。

 

俺が知る限りでは三上は既婚者で妻子がいる身だったはずだった。

 

「一体、どういう事なんだ・・?」

 

タクシーに乗り込み、

去って行く2人をいつまでも見ていた俺は動揺を隠せなかった。

 

(次回に続く)